FX投資の失敗による借金についての自己破産は可能か

代表弁護士 伊藤 一星 (いとう いっせい)
弁護士法人宇都宮東法律事務所 代表社員(パートナー弁護士)
所属 / 栃木県弁護士会 (登録番号49525)
保有資格 / 弁護士

FXは、信用取引によって元手が少なくても大きな利益を出すことができる金融商品で、取引をされたことがある方も多いと思います。

しかし、レバレッジにより大きな取引が可能となるため、為替相場が思っていたものとは反対に動いた場合、大きな損失がでるというハイリスクハイリターンな投資手法でもあります。

このため、FX投資で大きな損失をこうむり借金がかさんでしまうという場合があります。こうした場合に、自己破産制度は利用できるのでしょうか。

この記事では、FXと自己破産についてご説明します。

FX失敗による借金は免責不許可事由となる

自己破産とは

自己破産は、債務者の方が借金を増やしてしまい返済のめどがつかなくなってしまった場合に、家庭裁判所に申し立てを行い、免責許可を受けることで借金を免除してもらう制度です。

自己破産をすると、一部の例外を除き財産を手放さなければならないというデメリットはありますが、借金がなくなりますので、債務者がもう一度生活を立て直すことができるチャンスとなります。

ところで、家庭裁判所に自己破産申し立てをした場合であっても、必ずしも免責が認められるわけではありません。破産法で定められた免責不許可事由がある場合には、原則自己破産は認められません。

債務が免除されるということは、貸したお金を返済してもらえることを当然に期待していた債権者の利益を害することになりますので、免責を与えるのにふさわしくない一定の事情がある場合には自己破産を認めないという法律の趣旨となっています。

射幸行為は免責不許可事由

免責不許可事由は複数破産法に定められていますが、その中の一つとして、「浪費または賭博その他の射幸行為」があります。

賭博とは、プレイする人がコントロールできない偶然の事情に応じて勝敗に財産をかける行為をいい、パチンコ、競馬、賭け麻雀などいわゆるギャンブルのことをいいます。

FXは投資なので典型的なギャンブルではないですが、ハイリスクハイリターンな投資手法であることから「その他の射幸行為」として免責不許可事由に該当するとされています。他にも「その他の射幸行為」に該当する投資方法としては、株式取引や仮想通貨取引があります。

免責不許可事由があっても自己破産が可能場合もある

上述のように、免責不許可事由がある場合には、裁判所からの免責許可を受けることができないことが原則です。

しかしながら、免責不許可事由があっても、裁判所の裁量により免責を受けることができることもあります。このような裁判所の裁量による免責許可を、「裁量免責」といいます。

自己破産制度は債務者の方の生活再建を目的とした救済制度ですので、やむを得ない事情があったり債務者の帰責性が大きくなかったりするときなどは、弾力的な運用をして破産を認めることによりなるべく救済をはかろうとしているのです。FXでの借金がある場合で、裁量免責が受けやすくなる事情には、例えば以下のようなものがあります。

まず、FXでの借金額が小さく、自己破産に至った借金の大半はやむをえない他の理由が原因である場合は、免責不許可事由の程度が軽いといえるので、裁量免責される可能性があります。

また、上記事情にはあたらなくても、経済破綻をしてしまったことについて本人の真摯な反省が見られ、FX等投機行為をきっぱりとやめており計画的な家計管理ができているというような場合も、裁量免責を受けられる可能性が高くなります。

これらの事情を証明するために、場合によっては、裁判所に対して反省文や家計簿等家計管理をしていることがわかる書類等を提出することもあります。

裁量免責が受けられなくなるケース

自己破産を申し立てた人の97%が免責許可を受けられているといわれていますので、免責不許可事由であるFXでつくった借金であっても、裁量免責が認めてもらえる可能性は十分にあります。

しかしながら、以下のような事情がある場合は、裁量免責が認められない可能性があるので、注意しましょう。

FXを再開した場合

まず、自己破産申立後にFX等の投機行為を再開している場合です。このような場合、債務者が真摯に反省している、あるいは自己破産後はきちんと経済的に立て直せるだろうという心証を裁判所に与えられず、免責不許可となる可能性があります。

他の免責不許可事由もある場合

FXに加えて他にも免責不許可事由が重なっている場合も、裁量免責が認められにくくなります。

例えば、FXが好きな人は、FX以外にもパチンコや競馬等のギャンブルでも借金をしている場合があります。こうした事情が重なると悪質であると考えられて裁量免責がなされないこともあります。

また、偏頗弁済といって、複数の債権者のうち一部の債権者にのみ返済をすることは免責不許可事由に該当します。例えば、知人からの借金と金融業者からの借金がある場合に、知り合いである知人のほうに迷惑をかけないように先に弁済をしたくなるかもしれませんが、これはしてはいけません。

本来であれば破産管財人がついて、各債権者に平等に分配をしていくべきところ、債務者が勝手に一部の債権者に弁済してしまうと、他の債権者は弁済が受けられなくなってしまうので、公平に反するからです。

また、自己破産をすると、一部の例外を除き財産を手放さなければならなくなりますが、これを嫌がって財産隠しをしたことが発覚すると、免責不許可事由となります。

例えば、預貯金残高や不動産の名義を、配偶者の名義に変更する等の行為は財産隠しととらえられる可能性があります。

過去7年以内にも自己破産をして免責許可を受けている場合も、免責不許可事由となります。以前の免責から7年経過したあとであれば、再度免責を受けることは可能になりますが、前回の自己破産もFX等の投機行為が原因だった場合、反省が見られない、再度免責しても生活再建の見込みが薄いというような心証を裁判所に与えてしまい、裁量免責が受けづらくなることがあります。

最後に

いかがでしたでしょうか。

FXによる負債は免責不許可事由に該当するので、自己破産では解決できないことが原則です。

しかし、FXをきっぱりやめ、生活再建のめどをたてている場合は裁判所から裁量免責を受けることができる可能性があります。

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