個人事業主が自己破産するときの注意点

代表弁護士 伊藤 一星 (いとう いっせい)
弁護士法人宇都宮東法律事務所 代表社員(パートナー弁護士)
所属 / 栃木県弁護士会 (登録番号49525)
保有資格 / 弁護士

個人事業主とは、株式会社等の法人を設立しないで、独立して事業を営む人のことをいいます。自営業者と呼ばれることもあります。

ところで、個人事業主の方が経営にいきづまってしまう、その他個人的な事情によって債務超過になってしまった場合で、債務整理の手段として自己破産を選択するときに注意しておくべきことはあるでしょうか。

個人事業主の自己破産は管財事件となる

個人事業主のみに適用される特殊な自己破産の制度があるわけではありません。

しかし、個人事業主の自己破産の特色であり、会社員の方が自己破産する場合との違いとして、個人事業主の自己破産は基本的には管財事件に分類されるという点があります。

自己破産手続は、同時廃止と管財事件の2種類の手続きに分かれます。両者の違いとして、同時廃止の場合は、裁判所から破産管財人は選任されず、破産手続き開始と同時に終了するため、破産者にとって期間や手数料の負担が軽くて済みます。

個人事業主の場合は、会社員等事業者でない方の場合に比べると、事業に関連して自己が当事者となっている契約関係も多く、お金や財産の流れも複雑であるため、通常は管財事件となります。

管財事件では、裁判所から選任された破産管財人が財産調査等を行い、それらの契約関係や財産関係を整理したうえで、財産を換価し債権者に配当していくこととなります。

個人事業主の破産手続きはどのように進むか

上述のとおり、個人事業主の自己破産についても、そうでない方の自己破産でも、適用される破産手続自体は同一のものになります。

まず、自己破産の申し立てを裁判所に対して行い、破産手続き開始決定がなされます。上述のように、個人事業主の場合は管財事件となりますので、裁判所から破産管財人が選任され、財産の整理・管理・処分が開始されます。

その後、債権者集会が開かれ、債権者への説明や配当が行われ、破産手続きが終了、免責許可の決定という流れとなります。

個人事業主の自己破産にあたっては、事業者でない方よりも契約関係や財産の調査・換価に時間がかかることも多く、6~8カ月程度時間がかかるようです。

処分の対象となる財産

自己破産をすると、破産者が持っていた財産は、自由財産という限られた財産を除き破産財団に組み入れられ、債権者への返済に充当されます。

個人事業主の方の自己破産の場合、財産の中に事業についての設備や道具、在庫品などが含まれ、これらも基本的には処分の対象となります。

また、未回収の売掛金についても、個人事業主の財産の一部として取り扱われます。破産管財人が、直接取引先に対して売掛金を請求して回収し、債権者への配当に充当されることになります。逆に買掛金については、住宅ローンなどと同様、個人事業主の負債として取り扱われます。

そのため、買掛金をもつ取引先も、自己破産手続きで配当を受ける債権者となります。

そのため、自己破産をした事実は、取引先には知られてしまうものと思っておいた方がよいでしょう。

ところで、事業用の財産を手放してしまうと、業種や財産の内容によってはその後事業を継続していくことが難しくなる場合もありますので、なるべく手元に残したいと考えられる方も多いでしょう。

個人事業主が事業用の財産を手元に残す方法として、自由財産拡張の申し立てをするという方法が考えられます。この点については申立時に弁護士等の専門家に相談してみましょう。

個人事業主の自己破産に必要となる費用

まず、裁判所に自己破産の申し立てをするにあたり、印紙代として1,500円、郵便切手代として数千円、自己破産をした旨の官報公告費用が数万円かかります。

また、上述のように破産管財人がほぼ必ず選任されるので、破産管財人への報酬として20~50万円程度の管財予納金を納付する必要があります(賃貸不動産の明け渡し未了の場合には予納金が高額になることもあります)。自己破産手続きを弁護士等の法律の専門家に依頼すると、弁護士費用が別途必要となります。

合計すると個人事業主の自己破産には100万円近くの費用をみておくのが相当ということですので、自己破産を検討する場合は、ある程度現金を手元に残した状態である必要があります。

事業への影響

自己破産をすると一定期間、職業や資格が制限される業種はありますが、これらに該当しない場合は、自己破産後にも個人事業主は従前の事業を継続することはできます。

ただし、上述のように、事業用財産も換価されて債権者に配当される可能性がありますので、事実上事業継続が困難となる場合があります。

また、自己破産は、通常各種契約の解除事由として定められています。

そのため、事業に必要な契約、例えば事務所を借りていた場合の賃貸借契約や、従業員との雇用契約等が解除されてしまう可能性があります。

また、自己破産後一定期間は、信用情報機関のいわゆるブラックリストに情報が掲載されます。ブラックリストに掲載されている間は基本的にはローンが組めませんので、事業用資金を金融機関から借り入れる必要がある場合は、廃業せざるを得なくなってしまう場合もあります。

個人再生という選択肢もある

事業の継続という観点から、自己破産ではなく個人再生を選ぶという選択肢もあります。個人再生とは、裁判所に再生計画を提出し借金を大幅に減額してもらったうえで、原則として3年間かけて返済していく手続きです。

自己破産と違って借金の全額の免責を受けることはできませんが、自己破産のように事業用財産を手放したり契約が解除されたりするリスクが低いので、事業継続を重視する個人事業主の方には有効な選択肢であるといえます。

しかし、あくまで借金の返済はしていく必要がありますので、定期的な収入をえるなど返済のめどがつくことが必要です。

最後に

いかがでしたでしょうか。

個人事業主が自己破産する場合の注意点についてご参考になれば幸いです。

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